自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの接し方|年齢別の対応と家庭でできる12の実践法

「うちの子にどう接すればいいのだろう」。自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの接し方に悩む保護者の方は少なくありません。声かけの仕方、パニック時の対応、学校との連携など、日々の場面で迷いが生じるのは自然なことです。

ASD(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションの困難さやこだわり行動を特徴とする神経発達症です。CDC(米国疾病予防管理センター)の2024年報告によると、8歳児における有病率は約3.2%(31人に1人)に上昇しました。日本の弘前大学の調査でも、5歳児の有病率は約3.22%と報告されています。決して珍しい特性ではありません。

本記事では、発達支援の専門知見をもとに、ASDの子どもへの具体的な接し方を網羅的に解説します。年齢別の対応法、感覚過敏への配慮、パニック時の対処、二次障害の予防まで、家庭で実践できる方法を詳しくお伝えします。

目次

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの接し方を知る前に理解すべき基本特性

ASDの子どもに適切に接するには、まず特性を正しく理解することが出発点になります。特性を「直すべきもの」ではなく「その子の脳の働き方」として捉える視点が重要です。

ASDの3つの中核的な特性

ASDの診断基準は、DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)で定められています。中核的な特性は大きく以下の領域に分かれます。

  • 社会的コミュニケーションの困難さ。相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取ることが難しく、会話のやりとりがスムーズにいかない場合があります。
  • 限定された興味・反復的な行動。特定の物事への強いこだわりや、同じ動作を繰り返す常同行動がみられます。日常のルーティンが崩れることへの強い抵抗を示すこともあります。
  • 感覚の特異性(感覚過敏・感覚鈍麻)。音、光、触覚、においなどに対して過剰に敏感だったり、逆に鈍感だったりする特性です。

ASDの特性の現れ方は一人ひとり異なる

「スペクトラム」という言葉が示すとおり、ASDの特性は連続的なグラデーションです。同じ診断名でも、困りごとの程度や得意なことは大きく異なります。

たとえば、言葉でのコミュニケーションが流暢な子もいれば、発語がほとんどない子もいます。特定分野で突出した記憶力や集中力を発揮する子もいます。「ASDだからこう接する」という画一的な方法はありません。目の前の子どもをよく観察し、その子に合った関わり方を見つけていくことが大切です。

特性と性格の違いを理解する

「わがままだから」「しつけが悪いから」と誤解されやすいのがASDの子どもたちです。しかし、こだわり行動やパニックは脳の情報処理の特性から生じるものであり、本人の意思でコントロールできるものではありません。

この点を保護者自身がしっかり理解することが、適切な接し方の第一歩となります。

家庭で実践できる12の基本的な接し方

ここからは、ASDの子どもとの日常生活で役立つ、具体的な接し方を12のポイントに分けて解説します。

1. 短く具体的な言葉で伝える

ASDの子どもは、長い文章や抽象的な表現を理解しにくい傾向があります。「ちゃんとしなさい」「いい加減にして」などのあいまいな表現は避けましょう。

伝え方の例

NG例:「もうすぐ出かけるから、ちゃんと準備してね」

OK例:「10時に家を出ます。靴下をはいてください」

「いつ」「何を」「どうする」を明確にすることがポイントです。一度にたくさんのことを伝えず、一つずつ順番に指示を出すと伝わりやすくなります。

2. 視覚的な手がかりを活用する

ASDの子どもの多くは、耳からの情報よりも目からの情報を処理しやすい傾向があります。これを「視覚優位(しかくゆうい)」と呼びます。

具体的な視覚支援の方法は以下のとおりです。

  • 写真カードやイラストで手順を示す。たとえば朝の準備の流れを「起きる→着替える→顔を洗う→朝ごはん」とイラストで提示します。
  • タイマーやアナログ時計を使って残り時間を「見える化」する。終わりの時間が視覚的にわかると安心しやすくなります。
  • 約束ごとやルールを紙に書いて、目につく場所に貼る。口頭での注意よりも定着しやすくなります。

3. スケジュールを事前に伝える

「次に何が起こるかわからない」状態はASDの子どもにとって大きなストレス源です。見通しが持てないと不安が高まり、パニックにつながることもあります。

一日の流れを朝のうちに伝えましょう。予定変更がある場合は、できるだけ早めに「今日は〇〇が変わります」と知らせてください。急な変更が避けられない場合も、変更の理由を簡潔に説明するだけで落ち着けることがあります。

4. 言葉かけは肯定的な表現を選ぶ

否定的な言い方よりも、肯定的な表現のほうが伝わりやすくなります。「してほしいこと」を明確に伝える意識を持ちましょう。

言い換え例

NG例:「走らないで!」→ OK例:「歩いてください」

NG例:「騒がないで!」→ OK例:「小さい声で話してね」

NG例:「散らかさないで!」→ OK例:「おもちゃを箱に入れてね」

「〇〇しない」という禁止形では、子どもは何をすればよいかわかりません。「代わりにどうすればいいか」を具体的に示すことが大切です。

5. 統一した対応を家族で共有する

父親は許すのに母親は叱る、というように対応がばらつくと、子どもは混乱します。ASDの子どもはルールの一貫性を特に重視します。

家族間で「この場面ではこう対応する」というルールを話し合い、統一しましょう。祖父母や学童のスタッフなど、関わる大人全員で共有できるとさらに効果的です。

6. 環境を整える(構造化の考え方)

TEACCH(ティーチ)プログラムで知られる「構造化」は、ASD支援の基本的な手法です。環境を整理して、何をどこでするか視覚的にわかりやすくする方法です。

構造化には4つの要素があります。

構造化の種類内容家庭での具体例
物理的構造化場所の役割を明確にする勉強はこの机、遊びはこのスペースと区分する
時間の構造化時間の流れを視覚化する一日のスケジュール表を壁に貼る
活動の構造化作業手順を明示する着替えの手順を写真で示す
視覚的構造化情報を目で見てわかる形にする引き出しにラベルを貼り、中身を示す

家庭でもできる範囲で取り入れてみてください。完璧を目指す必要はなく、少しずつ試すことが大切です。

7. こだわりを否定せず活用する

ASDの子どもの「こだわり」は、その子にとっての安心材料です。無理にやめさせようとすると、強い不安やパニックにつながる可能性があります。

特定のキャラクターが好きなら、そのキャラクターの絵を使って学習を進めるなど、こだわりを学びのモチベーションに変換しましょう。電車が好きな子であれば、時刻表を使って数字の学習ができます。こだわりを「強み」に変えていく視点が大切です。

ただし、日常生活に著しい支障が出るこだわりについては、専門家と相談しながら段階的に調整していく必要があります。

8. できたことを具体的にほめる

「えらいね」「すごいね」だけでは、何をほめられたのかが伝わりにくい場合があります。ASDの子どもには、何がどうよかったのかを具体的に伝えましょう。

ほめ方の具体例

「自分から靴をそろえたね。とても良いことだよ」

「最後まで座って食べられたね。頑張ったね」

「弟におもちゃを貸せたね。優しいね」

ほめるタイミングも重要です。行動の直後にほめることで、「これでいいんだ」と理解しやすくなります。

9. 選択肢を提示して自分で決める機会をつくる

「何が食べたい?」というオープンな質問は、ASDの子どもにとって難易度が高い場合があります。「カレーとハンバーグ、どちらがいい?」と選択肢を限定すると答えやすくなります。

自分で選ぶ経験は自己決定力(自分のことを自分で決める力)の土台になります。小さな選択を日常に組み込んでいきましょう。服を選ぶ、おやつを選ぶ、遊びを選ぶなど、些細なことからで構いません。

10. 感情の言語化をサポートする

ASDの子どもは自分の感情を認識し、言葉で表現することに困難を感じやすい傾向にあります。これを「アレキシサイミア(感情の言語化困難)」と呼ぶことがあります。

子どもが泣いている場面で「悲しかったんだね」と感情を代弁してあげましょう。「気持ちカード」(嬉しい・悲しい・怒り・不安などの表情イラスト)を用意し、今の気持ちを指さしで伝えられるようにする方法も効果的です。

11. 切り替えの予告を丁寧にする

活動の切り替えはASDの子どもにとって難しい場面の一つです。「あと5分で終わりだよ」「あと3回やったらおしまいね」のように、終わりの予告を段階的に行いましょう。

タイマーを見せて「この音が鳴ったら終わりだよ」と伝えるのもよい方法です。突然「もうおしまい!」と中断させるのではなく、心の準備をする時間を確保してあげてください。

12. 安心できる「逃げ場」を用意する

自宅の一角に、静かに過ごせるスペースを設けましょう。小さなテントやパーテーションで区切った空間、お気に入りのクッションを置いたコーナーなどが適しています。

これは「罰としての隔離」ではなく、子ども自身が「つらくなったら自分で休める場所」です。「疲れたらここに来ていいよ」と伝えておくことで、自分で感情を調整する力が育ちます。

感覚過敏・感覚鈍麻への具体的な配慮

ASDの子どもの多くが、感覚の特異性を持っています。感覚過敏とは、通常の刺激を過剰に強く感じる状態です。逆に、痛みや温度を感じにくい「感覚鈍麻(かんかくどんま)」を持つこともあります。

五感別の感覚過敏と対応策

感覚過敏は五感すべてに生じる可能性があります。以下に主な感覚過敏の例と家庭でできる対応をまとめます。

感覚の種類過敏の例家庭での対応策
聴覚掃除機やドライヤーの音がつらいイヤーマフや耳栓を活用する。使用時は事前に知らせる
視覚蛍光灯のちらつきがまぶしいLED照明に変更する。カーテンで光量を調節する
触覚衣服のタグや縫い目がチクチクするタグなし衣類を選ぶ。肌触りのよい素材を探す
嗅覚特定の食品や洗剤のにおいが苦手無香料の製品を使用する。換気をこまめにする
味覚特定の食感や味を強く嫌がる無理に食べさせない。食べられる食品の幅を少しずつ広げる

感覚過敏への対応で大切な3つの原則

感覚過敏に対応するときには、以下の3つの原則を意識しましょう。

1つ目は、「慣れさせよう」としないことです。苦手な刺激に無理にさらし続けても、過敏は改善しません。むしろ苦痛が増し、トラウマになる危険性があります。

2つ目は、本人が「つらい」と訴えたら真剣に受け止めることです。大人には問題ない刺激でも、感覚過敏のある子どもには本当に苦痛なのです。「大げさだ」と否定しないでください。

3つ目は、対処ツールを本人に持たせることです。イヤーマフ、サングラス、お気に入りの手触りのよいグッズなどを「いつでも使っていいよ」と渡しておくと、安心感につながります。

感覚鈍麻にも注意を向ける

感覚鈍麻があると、怪我をしても痛みを感じにくい場合があります。また、暑さ寒さに気づかず熱中症や低体温を起こすリスクもあります。

体温調節の声かけや、怪我の有無の確認を日常的に行うことが大切です。本人から「痛い」と言いにくい場合もあるので、保護者が身体の状態を観察する習慣を持ちましょう。

パニック・かんしゃくが起きたときの対処法

ASDの子どもがパニックやかんしゃくを起こす場面は、保護者にとって最も大きな困りごとの一つです。適切な対応を知っておくことで、子どもも保護者も負担を軽減できます。

パニックの原因を理解する

パニックは「わがまま」ではありません。多くの場合、以下のようなきっかけがあります。

  • 予定外の出来事や急な変更が起きた
  • 感覚的な刺激(騒音、人混み、強い光など)が限界を超えた
  • 自分の気持ちや要求をうまく伝えられず、フラストレーションがたまった
  • 疲労や睡眠不足で心身の余裕がなくなった

これらの要因が重なって「情報処理のオーバーフロー(処理容量を超えた状態)」が起こり、パニックという形で表出します。

パニック時の5ステップ対応

パニックが起きたときは、以下の手順で対応しましょう。

第一に、子どもと周囲の安全を確保します。周囲にぶつかりそうな物があれば移動させ、危険を取り除いてください。

第二に、大人自身が冷静さを保ちます。保護者が慌てたり怒鳴ったりすると、子どもの興奮がさらに高まります。深呼吸をして落ち着いた声で対応してください。

第三に、刺激の少ない場所に移動します。可能であれば、静かな場所に連れていき、刺激を最小限にしてください。

第四に、クールダウンの時間を確保します。パニックの最中に説教や注意をしても届きません。感情が落ち着くのを待ちましょう。お気に入りのぬいぐるみやブランケットを渡すのも効果的です。

第五に、落ち着いてから振り返ります。気持ちが安定した後に「何がつらかったかな」と穏やかに聞いてみましょう。原因がわかれば、次回の予防策につなげることができます。

パニックを予防するための工夫

パニックは「起きてから対処する」だけでなく「起きにくい環境をつくる」ことが最も重要です。

日常生活では、スケジュールの見える化、予定変更の事前告知、感覚刺激の調整などを習慣にしましょう。子どもの「サイン」に気づくことも大切です。耳をふさぐ、体をゆする、表情がこわばるなどの前兆があれば、早めに休息を促してください。

年齢別に変わるASDの子どもとの関わり方

ASDの子どもへの接し方は、年齢や発達段階によって変化していきます。それぞれの時期に特有の課題と対応のポイントを解説します。

幼児期(1歳〜6歳):早期療育と基本習慣づくり

幼児期は脳の可塑性(かそせい。環境に応じて変化する力)が高い時期です。この時期に適切な療育を開始することで、社会性やコミュニケーション力の発達を促せることが多くの研究で示されています。

家庭での関わりのポイントは以下のとおりです。

  • 生活リズムを規則正しく整える
  • 絵カードを使って基本的なやりとりの練習をする
  • 遊びの中で「順番」や「待つ」ことを少しずつ経験させる
  • 好きな遊びを通して親子の信頼関係を深める

療育施設(児童発達支援事業所)への通所も検討しましょう。ABA(応用行動分析)やTEACCHプログラムなど、エビデンス(科学的根拠)のある手法を用いた療育が受けられます。

小学生(7歳〜12歳):学校適応と友人関係の支援

就学後は集団生活の中での困りごとが増える時期です。授業中の立ち歩き、友達とのトラブル、行事への不安などが課題になりやすくなります。

この時期に大切なのは、担任の先生や特別支援教育コーディネーターとの連携です。個別の教育支援計画の作成を依頼し、合理的配慮(学校が行うべき環境調整)を求めることができます。

学校で求められる合理的配慮の例

指示は口頭と板書の両方で行う

テスト時間の延長や別室での受験を認める

イヤーマフの使用を許可する

座席を刺激の少ない位置にする

家庭では、学校でのできごとを聞く時間をつくりましょう。ただし「今日何があった?」というオープンな質問は答えにくいことがあります。「給食はおいしかった?」「休み時間は何をした?」など、具体的に聞くと答えやすくなります。

友人関係のサポートも重要です。ソーシャルスキルトレーニング(SST)を通じて、場面に合った言動を学ぶ機会を設けるのも効果的です。

思春期(13歳〜18歳):自己理解と二次障害の予防

思春期は自我の目覚めとともに、自分の特性と周囲との違いに悩みやすくなる時期です。「自分はなぜみんなと同じようにできないのか」という苦しみが深まる可能性があります。

この時期に最も重要なのが、二次障害の予防です。二次障害とは、ASDの特性そのものではなく、周囲の無理解や不適切な環境によって二次的に生じる心理的問題のことです。

二次障害の種類具体的な症状サイン
内在化障害うつ、不安障害、強迫症状元気がない、眠れない、食欲低下
外在化障害反抗挑発症、行為障害暴言や暴力、反抗的態度の増加
不登校・引きこもり学校や社会からの回避朝起きられない、登校を強く拒否する

二次障害の予防には、以下の関わりが効果的です。

  • 本人の自己肯定感を守る声かけを意識する
  • 無理に「普通」に合わせることを求めない
  • 本人が安心して話せる環境をつくる
  • 必要に応じて思春期に対応できる専門家につなぐ

また、この時期は本人への「自分の特性の説明(告知)」のタイミングとしても適切とされています。ただし、告知の方法やタイミングは専門家と相談しながら慎重に進めてください。

保護者自身のメンタルケアと支援の活用

ASDの子どもの子育ては、保護者にとって心身の負担が大きくなりやすいものです。子どもに適切に接するためにも、保護者自身の心の健康を守ることが不可欠です。

「完璧な親でなくていい」という意識を持つ

ASDの子育てに正解は一つではありません。専門書に書いてあるとおりにできなくても自分を責めないでください。「今日は怒ってしまった」と感じる日があっても、翌日にまた穏やかに接し直せば大丈夫です。

子育ての質は「完璧さ」ではなく「継続的な努力と修正」で決まります。長い目で見て、少しずつ工夫を重ねていく姿勢が大切です。

支援機関を積極的に活用する

一人で抱え込まず、以下のような支援機関を活用しましょう。

  • 児童発達支援事業所。未就学児を対象とした療育サービスを提供する施設です。
  • 放課後等デイサービス。就学後の子どもを対象に、放課後や休日に療育的支援を行います。
  • 発達障害者支援センター。各都道府県に設置されており、相談や情報提供を無料で受けられます。
  • ペアレントトレーニング。保護者が子どもへの効果的な関わり方を学ぶプログラムです。全国の医療機関や支援センターで開催されています。

保護者同士のつながりを持つ

同じ経験を持つ保護者との交流は、精神的な支えになります。「親の会」や「ピアサポートグループ」(同じ立場の人同士の支え合い)への参加を検討してみてください。

近年ではオンラインでの保護者コミュニティも充実しており、自宅にいながら情報交換や悩みの共有ができる環境が整いつつあります。

専門的な療育・支援プログラムの種類と選び方

ASDの子どもへの支援には、さまざまなエビデンスに基づく手法が存在します。主要なものを紹介しますので、お子さんに合った方法を専門家と一緒に検討してください。

ABA(応用行動分析)

ABA(Applied Behavior Analysis)は、行動の前後の状況を分析し、望ましい行動を増やし、困った行動を減らすアプローチです。米国では、ASD児への早期集中介入として最もエビデンスが蓄積されている手法の一つです。

家庭での応用例として「行動の直後にほめる(強化する)」ことが挙げられます。子どもが自発的に挨拶できたら、すかさず「挨拶できたね」とフィードバックしましょう。

TEACCHプログラム

TEACCHは米国ノースカロライナ大学で開発された包括的支援プログラムです。前述の「構造化」を中心として、ASDの特性を活かした環境づくりを行います。

家庭、学校、職場など生涯にわたる支援を重視する点が特徴です。日本でも多くの療育施設がTEACCHの理念を取り入れています。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)

社会生活で必要なコミュニケーションスキルを練習するプログラムです。挨拶、順番待ち、断り方、助けの求め方などを、ロールプレイ(役割演技)やゲームを通して学びます。

小学校以降の子どもに特に効果的で、放課後等デイサービスやクリニックなどで実施されています。

PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)

発語が難しい子どもが、絵カードを使って自分の意思を伝えるための手法です。「ジュースがほしい」と伝えたいときに、ジュースの絵カードを相手に渡す練習から始めます。

カードを使ったコミュニケーションを重ねるうちに、発語が促進されるケースも報告されています。

感覚統合療法

感覚の処理に困難がある子どもに対して、ブランコ、トランポリン、粘土遊びなどの感覚刺激を取り入れた活動を行います。作業療法士(OT)が中心となって実施することが多い手法です。

感覚のバランスを整えることで、日常生活の困りごとの軽減を目指します。

学校・園との連携を成功させるコツ

ASDの子どもが集団生活で安心して過ごすためには、家庭と学校・園の連携が欠かせません。効果的な連携のための具体的なコツを紹介します。

子どもの特性を「書面」で伝える

口頭だけでの情報共有では、担当者が変わるたびに説明し直す必要が生じます。以下の情報を「サポートブック」や「引き継ぎシート」にまとめておくと便利です。

  • 子どもの得意なことと苦手なこと
  • 感覚過敏の具体的な内容と対処法
  • パニックのきっかけとなりやすい場面
  • 落ち着く方法(クールダウンの手段)
  • 家庭で効果的だった関わり方

これを年度初めに担任へ渡すことで、スムーズな情報共有が実現します。

定期的な面談の機会を設ける

トラブルが起きてからの緊急面談だけでなく、月に1回程度の定期面談を依頼してみましょう。子どもの変化や成長、新たな課題を早期に共有でき、問題が大きくなる前に対応できます。

面談では「困っていること」だけでなく「最近できるようになったこと」も共有してください。ポジティブな情報を先生と共有することで、先生が子どもの強みに注目した指導をしやすくなります。

特別支援教育の制度を知っておく

通常学級での学習が難しい場合には、通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校など、さまざまな教育形態の選択肢があります。

教育形態対象特徴
通常学級+合理的配慮通常の授業に概ね参加できる子ども座席配置や板書の工夫などで支援
通級指導教室通常学級に在籍しながら個別支援が必要な子ども週に数時間、別室で個別指導を受ける
特別支援学級少人数で手厚い支援が必要な子ども8人以下の少人数で専門的な指導を行う
特別支援学校専門的な教育環境が必要な子ども個々の教育的ニーズに応じた指導と自立支援

就学先を検討する際には、教育委員会の就学相談を利用することをおすすめします。

よくある悩みと専門家からのアドバイス

保護者の方からよく寄せられる悩みと、それに対する対応の考え方をQ&A形式でお伝えします。

Q1. 食べ物の好き嫌いが極端で栄養が心配です

ASDの子どもの偏食は、「わがまま」ではなく感覚特性に由来する場合がほとんどです。食感、温度、色、におい、盛りつけ方など、さまざまな感覚要因が影響しています。

無理に食べさせようとすると、食事そのものが嫌な体験として記憶されます。食べられる食品の範囲内で栄養バランスを工夫しつつ、新しい食品は「見せる→触る→口に近づける→少し味見する」と段階的に進めましょう。栄養面で心配な場合は、小児科医や管理栄養士に相談してください。

Q2. 友達ができず、一人で過ごしています

ASDの子どもの中には、一人遊びを好む子も多くいます。「一人でいること=かわいそう」とは限りません。本人が苦痛を感じていなければ、一人の時間も尊重してあげてください。

一方で「友達がほしいけれどうまく関われない」と感じている場合は、SSTや少人数の活動の機会を設けることが助けになります。共通の趣味を持つ子どもとの出会いの場を用意するのも良い方法です。

Q3. きょうだいへの影響が心配です

ASDの子どもにどうしても手がかかるため、きょうだいが我慢を強いられるケースがあります。「きょうだい児(障害のある子どものきょうだい)」への配慮も大切です。

きょうだいと二人きりの時間を意識的につくり、「あなたのことも大切に思っている」と伝えてください。きょうだい児向けのサポートグループも各地で開催されています。

Q4. 将来の自立が不安です

将来への不安は多くの保護者が抱えるものです。ASDのある人の多くは、適切な支援と環境調整があれば、社会の中で自分らしく生活しています。

幼少期からの支援の積み重ねが、将来の自立の土台になります。まずは目の前の「今できること」に注力しつつ、中長期的な視点で福祉サービスや就労支援の情報を集めておくと安心です。

ASDの子どもへの接し方で最も大切にしたいこと

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの接し方には、多くのテクニックやノウハウがあります。視覚支援、構造化、肯定的な声かけ、感覚への配慮、パニックへの対処。いずれも大切な方法です。

しかし、すべてのテクニックの根底にある最も大切なことは、「その子をありのまま受け入れる」という姿勢です。ASDの特性は「欠陥」ではなく「脳の働き方の違い」です。社会の多数派とは異なる情報処理の仕方を持っているだけで、その子自身の価値が下がるわけではありません。

近年は「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という考え方が広がっています。脳の働き方の多様性を社会全体で尊重し、誰もが自分らしく生きられる環境を目指す理念です。保護者の方がこの視点を持つことで、子どもへの接し方が自然と変わっていきます。

「この子にはこの子の成長のペースがある」。そう信じて、焦らず、しかし諦めず、日々の関わりを続けてください。小さな一歩一歩の積み重ねが、子どもの未来を確実に広げていきます。

困ったときは一人で抱え込まず、専門家や支援機関に相談してください。発達障害者支援センター(各都道府県設置)への相談は無料です。お住まいの地域の窓口を調べておくことをおすすめします。あなたとお子さんの毎日が、少しでも穏やかで豊かなものになることを願っています。

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