発達障害とは?症状・種類・支援方法を専門家が徹底解説
お子さんの行動で「もしかして発達障害?」と不安に感じたことはありませんか。近年、発達障害への理解が深まる一方で、正しい知識を得ることの重要性も高まっています。
この記事では、発達障害の基本的な定義から具体的な症状、診断方法、そして適切な支援まで、専門的な視点から詳しく解説します。
発達障害とは何か?基本的な定義と概要
発達障害とは、生まれつきの脳機能の違いによって、日常生活や学習面で困難が生じる状態を指します。2004年に制定された発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」と定義されています。
発達障害は決して病気ではなく、脳の特性の違いです。適切な理解と支援があれば、その人らしく豊かな人生を送ることができます。
発達障害の特徴
発達障害には以下のような共通の特徴があります。
- 生まれつきの特性:後天的に獲得するものではない
- 個人差が大きい:症状や程度は人それぞれ異なる
- 複数の障害を併存することがある
- 適切な支援により改善が期待できる
発達障害の主な種類と特性
発達障害は大きく3つのカテゴリーに分類されます。それぞれの特性を詳しく見ていきましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、社会的コミュニケーションの困難さと、限定的で反復的な行動パターンを特徴とする発達障害です。
主な症状
社会的コミュニケーションの困難
- 視線が合いにくい
- 表情や身振りから相手の気持ちを読み取ることが苦手
- 年齢相応の友人関係を築くのが困難
- 会話のキャッチボールが苦手
限定的で反復的な行動・興味
- 特定の物事への強いこだわり
- 同じ行動を繰り返す(常同行動)
- 感覚の過敏さまたは鈍感さ
- 変化への強い抵抗
有病率と診断
厚生労働省の調査によると、ASDの有病率は約1%とされています。男女比は約4:1で、男性に多く見られる傾向があります。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする発達障害です。
主な症状
不注意症状
- 集中力が続かない
- 忘れ物が多い
- 課題や活動を最後まで続けられない
- 整理整頓が苦手
多動・衝動症状
- じっとしていられない
- 順番を待つのが苦手
- 思ったことをすぐに口に出してしまう
- 危険を顧みない行動を取る
3つのタイプ
ADHDには以下の3つのタイプがあります:
- 不注意優勢型:不注意症状が主体
- 多動・衝動優勢型:多動・衝動症状が主体
- 混合型:両方の症状が見られる
学習障害(LD)
学習障害(Learning Disabilities:LD)は、知的発達に遅れはないものの、読み書きや計算などの特定の学習に著しい困難を示す発達障害です。
主な種類
読字障害(ディスレクシア)
- 文字を読むことが困難
- 似た文字を間違える
- 音読が苦手
書字障害(ディスグラフィア)
- 文字を書くことが困難
- 文字のバランスが悪い
- 漢字を覚えられない
算数障害(ディスカリキュリア)
- 数の概念が理解できない
- 計算が著しく苦手
- 文章題の理解が困難
発達障害の症状:年齢別の現れ方
発達障害の症状は年齢によって現れ方が変化します。早期発見のために、各年齢での特徴的な症状を理解しておきましょう。
乳幼児期(0~6歳)
0~2歳
- 視線が合わない
- 呼びかけに応じない
- 指さしをしない
- 言葉の発達が遅い
3~6歳
- 友達と遊べない
- 集団行動が苦手
- かんしゃくが激しい
- 特定の物や行動への強いこだわり
学童期(6~12歳)
学習面
- 読み書きの著しい困難
- 計算ができない
- 宿題に取り組めない
- 忘れ物が多い
行動面
- 授業中に席を立つ
- 友達とトラブルになりやすい
- ルールを守れない
- 整理整頓ができない
思春期・青年期(12歳以降)
社会性の課題
- 対人関係の困難
- 空気を読むことが苦手
- 自己肯定感の低下
- 二次的な精神的問題の出現
学習・進路の課題
- 学習の遅れ
- 進路選択の困難
- 就職活動での苦労
発達障害の原因:最新の研究から分かること
発達障害の原因については、長年にわたって研究が進められています。現在分かっている主要な要因をご紹介します。
遺伝的要因
遺伝の関与が強く示唆されています。双子研究では、一卵性双生児の発達障害の一致率が二卵性双生児より高いことが報告されています。
- ASD:遺伝率約80~90%
- ADHD:遺伝率約70~80%
- LD:遺伝率約40~60%
脳機能の違い
脳画像研究により、発達障害の人では脳の構造や機能に特徴的な違いがあることが明らかになっています。
ASDの脳の特徴
- 扁桃体(感情処理)の異常
- 前頭前野(実行機能)の活動低下
- 脳梁(左右脳の連携)の違い
ADHDの脳の特徴
- 前頭前野の活動低下
- 線条体(運動制御)の異常
- ドーパミン系の機能不全
環境要因
遺伝的素因に加えて、環境要因も発達障害の発現に影響することが分かっています。
胎児期の要因
- 妊娠中の感染症
- 薬物・アルコールの摂取
- 早産・低出生体重
幼児期の要因
- 重篤な脳炎・脳外傷
- 極度の栄養不良
- 虐待・ネグレクト
発達障害の診断:専門的な評価プロセス
発達障害の診断は、専門的な知識と経験を持つ医師によって行われます。診断プロセスを詳しく見ていきましょう。
診断基準
現在、発達障害の診断には**DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)**が広く使用されています。
ASDの診断基準
A. 社会的コミュニケーションの持続的欠陥
- 社会的相互作用の欠陥
- 非言語的コミュニケーションの欠陥
- 人間関係の発達・維持の困難
B. 限定的で反復的な行動パターン
- 常同的な運動や言語使用
- 同一性への固執
- 限定的で固定的な興味
- 感覚刺激への異常な反応
ADHDの診断基準
不注意症状(9項目中6項目以上)
- 細部への注意困難
- 持続的注意困難
- 聞いていないように見える
- 指示に従えない
- 課題や活動の整理困難
- 持続的精神努力を要する課題回避
- 物をなくす
- 気が散りやすい
- 日常活動での忘れっぽさ
多動・衝動症状(9項目中6項目以上)
- 手足をそわそわ動かす
- 席を離れる
- 不適切な場面での活発な活動
- 静かに遊べない
- じっとしていられない
- 過度におしゃべり
- 質問が終わる前に答える
- 順番を待てない
- 他者に割り込む
診断の流れ
1. 問診・観察
- 発達歴の詳細な聴取
- 現在の症状や困りごと
- 家族歴の確認
- 行動観察
2. 心理検査
- 知能検査(WISC-Ⅴ、WAIS-Ⅳなど)
- 発達検査(K-ABC-Ⅱ、DN-CASなど)
- 適応行動尺度(Vineland-Ⅱなど)
3. 医学的検査
- 身体診察
- 必要に応じて脳波、MRI検査
- 血液検査(他疾患の除外)
4. 総合的判断
- 複数の情報を統合
- 診断基準への該当性確認
- 支援計画の立案
診断を受けられる機関
医療機関
- 児童精神科
- 精神科
- 小児科
- 神経内科
相談機関
- 発達障害者支援センター
- 児童相談所
- 保健センター
- 教育相談センター
発達障害への支援方法:個別性を重視したアプローチ
発達障害の支援は、一人ひとりの特性に合わせた個別的なアプローチが重要です。効果的な支援方法をご紹介します。
療育・発達支援
応用行動分析(ABA)
- 行動の原因を分析
- 適切な行動を段階的に教える
- データに基づく客観的評価
TEACCH(ティーチ)プログラム
- 構造化された環境設定
- 視覚的な手がかりの活用
- 個別の学習プログラム
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
- 対人関係技能の向上
- 社会的ルールの学習
- コミュニケーション能力の育成
薬物療法
ADHDに対する薬物療法
薬物名 | 効果 | 服用回数 |
---|---|---|
メチルフェニデート(コンサータ) | 注意力向上、多動抑制 | 1日1回 |
アトモキセチン(ストラテラ) | 注意力向上、衝動性抑制 | 1日1~2回 |
グアンファシン(インチュニブ) | 多動・衝動性抑制 | 1日1回 |
注意点
- 専門医による処方・管理が必要
- 定期的な効果・副作用のモニタリング
- 非薬物療法との組み合わせが重要
環境調整
家庭での支援
- 予測可能な日課の確立
- 視覚的スケジュールの活用
- 感覚過敏への配慮
- 成功体験を積み重ねる
学校での支援
- 個別の教育支援計画作成
- 合理的配慮の提供
- 特別支援教育の活用
- 教師との連携強化
職場での支援
- 業務内容の明確化
- 環境の整備
- コミュニケーション支援
- 障害者雇用制度の活用
発達障害のある子どもの教育:特別支援教育の活用
教育現場では、発達障害のある子どもたちに対する特別支援教育が充実してきています。
特別支援教育の仕組み
通常の学級
- 合理的配慮の提供
- 個別の教育支援計画
- 通級による指導
特別支援学級
- 少人数での指導
- 個別のニーズに対応
- 交流及び共同学習
特別支援学校
- 専門的な教育
- 個別の指導計画
- 関係機関との連携
合理的配慮の具体例
学習面の配慮
- 文字の拡大
- 時間延長
- ICT機器の活用
- 別室での受験
行動面の配慮
- 座席位置の配慮
- 休憩時間の設定
- 視覚的手がかりの提供
- 感覚過敏への対応
進学・進路選択
高等学校
- 通級による指導の拡充
- 入試での配慮措置
- 進路指導の充実
大学・専門学校
- 障害学生支援の体制整備
- 授業での合理的配慮
- 就職支援の強化
大人の発達障害:見過ごされがちな課題
近年、大人になってから発達障害が判明するケースが増えています。その背景と対応について解説します。
大人の発達障害の特徴
職場での困りごと
- 仕事の優先順位がつけられない
- 同僚とのコミュニケーションに困難
- ミスが多い
- 時間管理ができない
日常生活での困りごと
- 金銭管理ができない
- 人間関係でトラブルになりやすい
- 感情のコントロールが困難
- 家事や身の回りのことができない
二次的な問題
適切な支援を受けられないまま大人になると、二次的な精神的問題を抱えることがあります。
よく見られる二次的問題
- うつ病
- 不安障害
- 適応障害
- 依存症
大人への支援
診断・評価
- 発達歴の詳細な聴取
- 心理検査の実施
- 職場での困りごとの把握
支援内容
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング
- 就労支援
- 家族への支援
発達障害者支援法と社会制度
発達障害への理解と支援を促進するため、様々な法律や制度が整備されています。
発達障害者支援法
2004年に制定され、2016年に改正された発達障害者支援法は、発達障害者への支援の基本的枠組みを定めています。
法律の目的
- 発達障害の早期発見・早期支援
- 切れ目のない支援の提供
- 社会参加の促進
- 差別の解消
支援の基本理念
- 個別のニーズに応じた支援
- 本人・家族の意思の尊重
- 関係機関の連携
- 地域での支援体制整備
障害者差別解消法
2016年に施行された障害者差別解消法により、発達障害者への合理的配慮が義務化されました。
合理的配慮の例
- 職場での業務調整
- 学校での学習支援
- 公共機関でのサービス提供
利用可能な福祉サービス
障害福祉サービス
- 就労移行支援
- 就労継続支援
- 生活介護
- 短期入所
地域生活支援事業
- 相談支援
- 移動支援
- 日中一時支援
- 地域活動支援センター
家族・周囲の人ができる支援
発達障害のある人を支えるために、家族や周囲の人々の理解と協力が欠かせません。
家族にできること
理解を深める
- 発達障害について正しく学ぶ
- 本人の特性を理解する
- 困りごとに共感する
環境を整える
- 予測可能な生活リズム
- 感覚過敏への配慮
- 成功体験を積み重ねる機会の提供
専門機関との連携
- 定期的な相談
- 支援計画への参加
- 情報の共有
周囲の人にできること
職場の同僚
- 特性への理解を示す
- 適切なコミュニケーション
- サポートできることを伝える
友人・知人
- 偏見を持たない
- 自然な関わりを続ける
- 必要な時に手助けする
社会全体での取り組み
啓発活動
- 発達障害週間(4月2日~8日)
- 講演会・研修会の開催
- メディアでの正しい情報発信
制度の充実
- 支援体制の整備
- 専門人材の育成
- 研究の促進
発達障害に関する最新の研究動向
発達障害の研究は日々進歩しており、新しい知見が蓄積されています。最新の研究動向をご紹介します。
脳科学研究の進展
脳画像技術の発達により、発達障害の脳内メカニズムの解明が進んでいます。
最新の知見
- 脳ネットワークの結合異常
- 神経伝達物質の役割
- 発達過程での脳の変化
遺伝学研究
ゲノム解析技術の進歩により、発達障害の遺伝的要因の解明が進んでいます。
重要な発見
- 関連遺伝子の同定
- エピジェネティクス(後天的遺伝子修飾)の役割
- 環境と遺伝子の相互作用
早期介入研究
早期発見・早期介入の効果に関する研究が活発に行われています。
研究成果
- 生後6か月からの介入効果
- 親子関係への影響
- 長期的な予後の改善
よくある誤解と正しい理解
発達障害については多くの誤解が存在します。正しい理解を深めるために、よくある誤解を解説します。
誤解1:「育て方が悪い」
誤解:発達障害は親の育て方が原因
正しい理解:発達障害は生まれつきの脳機能の違いであり、育て方とは関係ありません。適切な支援により改善が期待できます。
誤解2:「知的障害がある」
誤解:発達障害の人は知的障害がある
正しい理解:発達障害と知的障害は別のものです。多くの発達障害の人は平均的または平均以上の知的能力を持っています。
誤解3:「大人になれば治る」
誤解:発達障害は大人になれば自然に治る
正しい理解:発達障害は生涯にわたる特性です。しかし、適切な支援により社会適応は大きく改善できます。
誤解4:「わがまま」
誤解:発達障害の行動はわがままや甘え
正しい理解:発達障害の行動は脳機能の違いによるものです。本人なりに一生懸命取り組んでいることを理解することが大切です。
発達障害の早期発見のポイント
早期発見・早期支援は、発達障害のある人の将来に大きな影響を与えます。各年齢での注意すべきサインをご紹介します。
1歳半健診でのチェックポイント
言語発達
- 意味のある単語を話さない
- 指差しをしない
- 「バイバイ」などの模倣をしない
社会性
- 視線が合わない
- 名前を呼んでも振り向かない
- 他の子どもに興味を示さない
3歳児健診でのチェックポイント
コミュニケーション
- 2語文を話さない
- 質問に答えられない
- ごっこ遊びをしない
行動面
- 極端なこだわりがある
- かんしゃくが激しい
- 集団行動ができない
就学前(5~6歳)のチェックポイント
学習準備
- ひらがなに興味を示さない
- 数の概念が理解できない
- 絵を描くことを嫌がる
社会性
- 友達と遊べない
- ルールを理解できない
- 指示に従えない
早期発見後の対応
相談先
- かかりつけ小児科医
- 保健センター
- 発達障害者支援センター
- 児童発達支援事業所
重要なポイント
- 早期の相談・診断
- 個別の支援計画作成
- 家族への支援
- 継続的なフォローアップ
発達障害と才能:強みを活かす視点
発達障害のある人の中には、特定の分野で優れた能力を発揮する人がいます。強みを活かす支援について考えてみましょう。
発達障害と関連する才能
ASDの人に見られる強み
- 細部への注意力
- パターン認識能力
- 論理的思考力
- 集中力の高さ
ADHDの人に見られる強み
- 創造性・発想力
- エネルギッシュさ
- 直感力
- 多面的思考
LDの人に見られる強み
- 空間認識能力
- 芸術的感性
- 口頭でのコミュニケーション能力
- 問題解決力
強みを活かした進路選択
理系分野
- 情報技術(IT)
- 工学・建築
- 数学・物理学
- 研究職
芸術分野
- 美術・デザイン
- 音楽
- 文学・執筆
- 映像制作
専門職
- 職人・技術者
- 会計・税務
- 法律関係
- 医療関係
才能開発のための支援
教育的支援
- 興味・関心を伸ばす
- 個別指導の充実
- 専門的な学習機会の提供
環境整備
- 集中できる環境
- 適切な課題設定
- 成功体験の積み重ね
発達障害者の就労支援:働きやすい社会の実現
発達障害のある人が能力を発揮して働ける環境の整備が進んでいます。就労支援の現状と課題を見ていきましょう。
就労の現状
就労率の向上 近年、発達障害者の就労率は着実に向上しています。ハローワークでの職業紹介件数も年々増加しています。
就労形態
- 一般就労(一般企業での雇用)
- 障害者雇用(法定雇用率制度を活用)
- 福祉的就労(就労継続支援事業所など)
就労支援サービス
就労移行支援
- 職業訓練
- 職場実習
- 就職活動支援
- 職場定着支援
就労継続支援
- A型(雇用契約あり)
- B型(雇用契約なし)
- 工賃向上の取り組み
ジョブコーチ支援
- 職場での適応支援
- 業務内容の調整
- 同僚への理解促進
企業での取り組み
合理的配慮の提供
- 業務内容の調整
- コミュニケーション支援
- 環境の整備
- 労働時間の調整
成功事例 多くの企業で発達障害者の雇用が成功しています。特に、IT関連企業や製造業での成功事例が報告されています。
発達障害の二次障害予防
適切な支援を受けられない場合、発達障害のある人は二次的な問題を抱えるリスクがあります。予防と対応について解説します。
主な二次障害
精神的問題
- うつ病・不安障害
- 適応障害
- 摂食障害
- 依存症
行動的問題
- 反社会的行為
- ひきこもり
- 自傷行為
- 暴力的行動
身体的問題
- 睡眠障害
- 頭痛・腹痛
- 摂食の問題
予防のポイント
早期発見・早期支援
- 適切な診断・評価
- 個別の支援計画
- 継続的な支援
環境調整
- ストレス軽減
- 成功体験の提供
- 安心できる居場所の確保
自己理解の促進
- 自分の特性への理解
- 得意・不得意の把握
- セルフアドボカシー(自己主張)能力の育成
二次障害への対応
専門的治療
- 精神科・心療内科での治療
- カウンセリング・心理療法
- 薬物療法(必要に応じて)
包括的支援
- 医療・福祉・教育の連携
- 家族への支援
- 地域資源の活用
発達障害の国際的動向
発達障害への理解と支援は、世界共通の課題です。国際的な動向を見てみましょう。
世界保健機関(WHO)の取り組み
**ICD-11(国際疾病分類第11版)**では、発達障害の分類が見直されました。
主な変更点
- 自閉スペクトラム症の概念導入
- 知的発達症の重症度分類見直し
- 特異的学習症の細分化
各国の取り組み
アメリカ
- 障害者教育法(IDEA)による特別支援教育
- 自閉症CARES法による研究促進
- 就労支援制度の充実
イギリス
- 自閉症法による国家戦略
- SEND(特別教育ニーズ・障害)制度
- 成人期への移行支援
北欧諸国
- インクルーシブ教育の先進的取り組み
- 社会保障制度の充実
- 就労支援の多様化
国際的研究協力
大規模研究プロジェクト
- SPARK(自閉症研究プロジェクト)
- AIMS-2-TRIALS(自閉症治療研究)
- ADHD-200(ADHD研究コンソーシアム)
発達障害と家族:支える側への支援
発達障害のある人を支える家族への支援も重要な課題です。
家族が抱える困難
心理的負担
- 将来への不安
- 社会的偏見への悩み
- 自責の念
- 疲労・ストレス
実際的困難
- 経済的負担
- 時間的制約
- 情報不足
- 支援機関との調整
家族支援の内容
情報提供・教育
- 発達障害に関する正しい知識
- 対応方法の指導
- 支援制度の説明
- 将来設計の相談
心理的支援
- カウンセリング
- 家族会・親の会への参加
- ピアサポート
- レスパイトサービス
実際的支援
- 経済的支援制度の活用
- サービス利用の調整
- 関係機関との連携
- 緊急時の対応
きょうだい児への配慮
発達障害のある子どものきょうだいも、特別な配慮が必要です。
きょうだい児の抱える課題
- 親の注意が障害のある子どもに向きがち
- 将来への不安
- 友人関係での悩み
- 責任感の重さ
支援の方向性
- 個別の時間確保
- 年齢に応じた説明
- きょうだい会への参加
- 将来への適切な見通し
発達障害者の権利擁護
発達障害のある人の人権と尊厳を守る取り組みが重要です。
権利擁護の基本原則
自己決定の尊重
- 本人の意思の確認
- 選択肢の提示
- 意思決定支援
尊厳の保持
- 個人として尊重
- プライバシーの保護
- 差別・偏見の排除
社会参加の促進
- インクルージョンの推進
- バリアフリー環境の整備
- 合理的配慮の提供
権利擁護のための制度
成年後見制度
- 法定後見(後見・保佐・補助)
- 任意後見
- 日常生活自立支援事業
苦情解決制度
- 事業所内での苦情処理
- 運営適正化委員会
- 第三者委員の設置
権利擁護団体
- 障害者権利擁護センター
- 法テラス
- 弁護士会の支援
テクノロジーを活用した支援
ICT(情報通信技術)の進歩により、発達障害への新しい支援方法が登場しています。
支援技術の例
コミュニケーション支援
- 音声出力装置(VOCA)
- 絵カード・シンボルアプリ
- 動画による社会的スキル学習
学習支援
- 読み上げソフト
- 予測入力システム
- デジタル教材
日常生活支援
- スケジュール管理アプリ
- リマインダー機能
- GPS位置情報サービス
AI(人工知能)の活用
診断支援
- 行動分析による早期発見
- 音声・画像解析技術
- 大規模データ解析
個別支援計画
- 学習履歴の分析
- 最適な支援方法の提案
- 進歩の可視化
今後の展望
バーチャルリアリティ(VR)
- 社会的スキル訓練
- 不安場面への段階的露出
- 安全な練習環境の提供
ロボット技術
- コミュニケーション相手
- 療育への活用
- 日常生活支援
発達障害に関する相談窓口
発達障害について相談できる専門機関をご紹介します。
公的相談機関
発達障害者支援センター
- 各都道府県・指定都市に設置
- 相談支援・発達支援・就労支援
- 関係機関との連携調整
児童相談所
- 18歳未満の児童が対象
- 相談・診断・一時保護
- 施設入所の調整
保健センター
- 健康診査・相談
- 早期発見・早期支援
- 保健師による継続支援
医療機関
専門科目
- 児童精神科
- 精神科
- 小児神経科
- 小児科
受診の流れ
- 電話予約(待機期間があることが多い)
- 初診(詳細な問診・検査)
- 継続診療(必要に応じて)
民間相談機関
NPO法人・社会福祉法人
- 当事者・家族会
- 専門相談員による支援
- ピアサポート
私立の発達支援施設
- 個別療育
- 集団療育
- 家族支援
発達障害理解のための社会啓発
発達障害への理解を深めるための社会全体での取り組みが重要です。
啓発活動の現状
世界自閉症啓発デー(4月2日)
- 国連が制定した国際デー
- ブルーライトアップ
- 啓発イベントの開催
発達障害啓発週間(4月2日~8日)
- 厚生労働省が設定
- 全国各地でのイベント
- メディアでの特集
教育現場での取り組み
教職員研修
- 発達障害の理解促進
- 支援方法の習得
- 合理的配慮の提供
児童・生徒への教育
- 多様性の理解
- 思いやりの心の育成
- いじめ防止
企業での取り組み
社員研修
- 発達障害の基礎知識
- 職場での配慮方法
- コミュニケーションスキル
雇用促進
- 障害者雇用の推進
- 職場環境の整備
- 定着支援の充実
発達障害と向き合う社会へ
発達障害は、生まれつきの脳機能の違いによって起こる特性であり、決して病気ではありません。適切な理解と支援があれば、発達障害のある人も豊かで充実した人生を送ることができます。
重要なポイント
- 早期発見・早期支援の重要性
- 個別性を重視した支援アプローチ
- 本人・家族への包括的支援
- 社会全体での理解促進
- 強みを活かした人生設計
発達障害のある人が自分らしく生きられる社会の実現には、私たち一人ひとりの理解と協力が欠かせません。正しい知識を持ち、偏見のない温かいまなざしで見守ることから始めましょう。
もしあなたやあなたの周りの方が発達障害について悩んでいるなら、一人で抱え込まずに専門機関に相談してください。必ず適切な支援が受けられます。
相談先一覧
- 発達障害者支援センター:全国共通ナビダイヤル 0570-063-370
- 児童相談所全国共通ダイヤル:189(いちはやく)
- 障害者就業・生活支援センター:各地域に設置
発達障害への理解が深まり、誰もが自分らしく輝ける社会の実現を目指して、今日から行動を始めませんか。